築地で朝を迎えた話 後編

築地で朝を迎えた話 後編

さて、1日東京観光を終え夜も深まってきた。前日の先頭は12時に並んだということだが、今日はどうなっているのか。

鮪の競りを見たい。今日で最後だ。このために来ているし、もう見られないと言われると余計に見たい。

飲み会を終え、タクシーで今朝来たおさかな普及センターへと再び向かった。到着したのは12時すぎ。急いで受付場所へと向かった。今朝とは違い、建物が開いていて中に灯りが見える。とにかく中へと急いだ。

「はい、どうぞ。」

と言われゼッケンのようなものを渡された。

そして一言。「あと5人ですね。」

なんと!12時過ぎに受け付けはあと5人だと言うのだ。

よかった!そう思ったのもつかの間。受付票を受け取りさえすれば、ホテルに戻り眠りまた戻ってこればいいとばかり思っていた。実際は、その建物からはお手洗いと自販機の利用しか許されなかった。会議室のような建物の中で朝まで待たなければならないのだ。

まさかの状況がのみ込めず、しばし呆然としていた。ここで朝を迎えなければ競りの見学ができないという現実を受け入れるには、少し時間がかかった。せめてあらかじめ知っていれば、いくらかの準備ができた。しかし、時すでに遅し。布団で寝たいのなら競りは諦めなければならない。諦めてここで待つしかないのだ。

お手洗いに行った帰り、警備員の方に先頭は何時から並んだのか聞いてみた。その方によると、10時半に出勤した時点で30人ほどがすでに並んでいたということだ。

間一髪、12時過ぎに受け付けてもらえたが、数分後に断られている人を目撃した。せっかく間に合ったのだ。とにかく待つしかない。

仮眠をとっている人が多くいた。しかし、私はどこでも眠れるタイプではない。初めはスマホをいじっていたが、だんだん飽きてきた。後ろにいる人に話しかけ、時間をつぶした。

しかし、夜は長い。2時半頃、建物内の一部がざわついた。幸い、私から遠くで起こった出来事だが、ゴキブリが出てきた。ゴキブリもこんな時間にこの人たちは何事だと、見に来たのかもしれない。

眠い。しかし眠れない。隣にいる人はタブレットで熱心に何かを読んでいる。一言もわからないが、ドイツ語だということはわかった。

「ドイツから来たんですか?」英語で聞いてみた。

「日本に住んでいて、鮪の競りが見られなくなるというから来たんですよ」と、彼は答えた。

言い忘れていたが、築地には外国人が本当に多い。観光客の数だけで言えば、恐らく日本人より外国人の数の方が多いのではないかと思う。注意書きもメニューも英語と中国語で書かれているし、とにかくよく外国語が聞こえる。あまりにも外国人率が高すぎて、外国にいる気分になりそうだ。

見学のために並んだ人も、日本人より外国人の方が多い。

5時頃、見学のために並んだ人の知り合いで鮪の仲買人だという方があらわれた。中に入るなり、みんなが寝ていることに驚いていたが、朝の5時に寝ているのは仲買人にとっては驚くことなのかと、私が驚いた。

彼は非常に流暢な英語で鮪の競りについて説明をし始めた。質問にも英語で次々に答えていった。

私は非常に感心した。魚河岸のおもてなしの心意気が見えたようで、見学がますます楽しみになってきた。

  • 鮪は穫れてからすぐに冷凍され、1年かけて日本に戻ってくる。
  • 競りはギャンブルのようなもの。ベテランでも、外れることもある。
  • 鮪の善し悪しの判断は、尻尾の見た目だけ。
  • 昔はよく鮪を食べていたが、今はほとんど食べることはない。
  • 築地移転について。

など、非常に細かく説明してくれた。

ちなみに全て英語だ。日本人の方が日本語で質問もしたが、答えは英語だった。

一体ここはどこの国なのかと思ってしまいそうになるが、日本である。

30分程の説明が終わった。あともう少しだ。そう思うとそわそわし外の空気が吸いたくなり、建物のすぐ外に出た。

何人かの外国人がおり、今日も見学が終わった後、仕事に行くと話しているのが聞こえた。

私が話しかけたドイツ人然り、外国人見学者の中には日本に住んでいて、鮪の競りが見られなくなるというニュースを聞きつけやってきた外国人が多くいたのかもしれない。彼らはきっと、日本に住んでいるからこその日本の良さを知っていて、それを惜しんでやってきたのではないかと思う。

外の空気は冷たく、秋の気配を感じた。中に入ろうとすると、救急車がやってきた。何事かと思ったが、何が起こったかまではわからなかった。

建物の中に入り、今か今かと待つ。5時間以上待ったが、最後の30分が一番長かった。

前半と後半に分かれて見学に向かう。まず前半を見送った。20分後に後半が向かう。

「中は非常に混雑しているので、注意するように」と英語で説明があった。

その後、

「それから日本人の方、今朝だけで3人ひかれてますからね!気をつけてくださいよ!」

と言われ、救急車がきた理由がわかった。

競りがおこなわれている場所まで、警備員の誘導により向かう。途中たくさんのターレーが行き交う。無論、見学者を優先などさせてくれない。場内の魚河岸は、生活がかかっている。みんな真剣に仕事中なのだ。

競りが行われている場所は非常に寒かった。大きな魚が横たわっているのが見えた。手で何かサインを出しながら、何かを言っているのが聞こえたがさっぱりわからなかった。

またしても、待った時間よりも見学の時間は短い。あっという間に見学は終わった。

歩いていると、競り落とした鮪を運ぶターレーに何度も遭遇した。その大きさはどれも見事だった。

築地市場は10月6日に閉場し、10月11日より豊洲市場に移転する。移転後の市場の様子はどうなるのか非常に興味深い。

移転後もまた東京の魚を食べに行きたいと思っているところである。

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